宣言
社会の持続可能な発展と、科学が文化の一部として根ざす社会を実現するために
− いまこそ、科学コミュニケーション活動の深化と拡張を −
21世紀を目前に控えた1999年、世界科学会議は20世紀型の「知識のための科学」に加えて、21世紀における科学の責務は「社会における科学、社会のための科学」であるという「ブダペスト宣言」を発表した。そうした流れを受けてわれわれ「21世紀の科学教育を創造する会」は、2003年より過去8回にわたり、博物館やプラネタリウム、研究・教育・行政機関等にかかわる人たちを中心に、「科学リテラシー」や「科学コミュニケーション」をテーマとしたワークショップ「21世紀型科学教育の創造」を開催してきた。
科学をめぐる状況は、全く新しい時代に入っている。誰もがその恩恵を受けつつも、新たな展開に追いつけず、社会全体がとまどっている状態とも言えるかもしれない。このような人類が経験したことのない全く新しい科学技術基盤社会においては、市民の一人ひとりが科学や技術の本質を理解し、常に関心をもちつづける資質(科学リテラシー)を養い、物事を主体的に判断できることが求められている。
また、科学は利便性だけでなく、精神的に豊かに生きるための糧ともなりえると、われわれは実感している。われわれはどこから来たのか、われわれはなにものなのか、われわれはどこへ向かうのか。この問いに真剣に向き合ううえで、科学は欠かすことのできない要素の1つだからである。
「21世紀の科学教育を創造する会」は、万人のための科学リテラシーを構築し共有することが、21世紀に生きるわれわれに課せられた課題であるとの認識で一致した。そしてこの課題を達成するためには、幼児教育から初等中等教育さらに高等教育まで含めたフォーマルな科学教育の改善はもちろん、生涯学習や地域活動、メディアと社会の関係等、インフォーマルな科学教育活動の革新的な発展が不可欠だと考える。そこで重要な役割を果たすのが、科学コミュニケーションである。(ここで言う「科学」は、技術、人文・社会科学を含む既成の学問としての「科学」のみならず、自然現象に対する素朴な驚き(センス・オブ・ワンダー)や生活の知恵までも含む広い意味での「サイエンス」を指す)
科学コミュニケーションは、科学を有効に活用して実現したい社会、そのためになすべきこと、あるいは科学のプラス面とマイナス面などについて、すべての市民がそれぞれの立場を越えて意見を交換し合うための方策であり活動理念である。科学という道具を用いて、市民一人ひとりが幸福のあり方を模索し、それを実現するために必要な全ての活動を、広い意味での科学コミュニケーションと呼んでもよいかもしれない。科学コミュニケーションの促進は、科学リテラシーの共有を広げる。科学リテラシーの共有はまた、科学コミュニケーションの促進にもつながる。その意味で、科学コミュニケーションと科学リテラシーは車の両輪である。
市民一人ひとりが自立し、協働し、身心ともに豊かに生きられる社会を構築するためには何が必要か、われわれワークショップ「21世紀型科学教育の創造」参加者一同は論じあってきた。今年生まれた子供たちが成人を迎える20年後に関して、われわれには責任がある。そのことを自覚し、われわれは今、行動を起こさなければならない。
全国で行われているさまざまな科学コミュニケーション活動をよりいっそう推進し、さらには日本の科学文化を世界に発信するためには、強力なネットワークの構築が必要である。われわれはそのようなネットワークを構築し、全国の広範な仲間との交流を通じた情報と理念の共有、学術研究の深化等を積極的に進める決意である。
科学コミュニケーションは、とても広い領域を含んでいる。したがって、協働の呼びかけは広い範囲にわたる。われわれの活動は小石を投じる行為にすぎないかもしれない。しかし、その波紋がやがては広がり、広範な賛同を呼ぶことになると信じる。なぜなら、われわれの活動は国の科学技術政策や科学教育、さらには地域の活性化や市民の生き甲斐づくりなどの実現への寄与も目指すものだからである。
われわれは、科学コミュニケーションの促進と科学リテラシーの共有を目指す全国的な運動の実践にただちにとりかかることをここに宣言する。
平成22年12月19日
ワークショップ「21世紀型科学教育の創造 2010」賛同者一同